(2023年11月に杉本さなえさんが書いた文章を掲載させて頂いてます)
「AGEHA」は2022年11月に発行された作品集です。
高円寺にある【えほんやるすばんばんするかいしゃ】で、2018年11月に催した個展「あげは」で展示した作品を1冊にまとめた本です。発行されてちょうど1年経ちます。1年経ったら本についてすこし書こうと考えていました。
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個展「あげは」に向けて、2018年の夏の終わりから冬にかけて準備をしていました。
個展のタイトル「あげは」は1年ほど前から決めていました。音の響きが生理的で良いと思いました。
(個展のタイトルは半年〜1年ほど前に自然と決まり、そのタイトルに誘導してもらいながらなんとなく描いていく…というのが、いつもの進め方です)
絵を1枚1枚仕上げていきながら、微笑んでいる人物の絵は全部ボツにしました。なぜボツにしてるのかわかりませんでした。
ある程度枚数がたまってきた頃、それらの絵を観ながら「…このひとたちを見たことがある」と思いを巡らせるようになりました。そしてそれが、今までどこかで見てきた、古い一族の肖像画やモノクロの写真に在る女性たちのようだと気づきました。彼女たちは若くて美しく、でも硬い表情で、何かを待ちかまえるように、じっとこちらを見ているー
ーわたしが今描いているのは、もう死んだひとたちなのだ。そして彼女たちの人生は、たぶん幸福なものではなかった。
そうなんだ、と気づいたときのことをよく覚えています。それは不思議な感覚でした。
それからは、そこにある何かの邪魔をしないように、流れを整えて、残りの絵を描き、全体に添える文章を書きました。
すべての絵を描き終えたときには「これをひとつにまとめなくては」と考えていました。
そして展示期間の半ばだったか終了後だったか、【るすばん】の荒木さんが「本にしましょう」と言ってくださいました。
わたしが書いた文章は盆栽のように切り詰めた文章だったので、英語での直訳が難しく、本作りのメンバーである純子さんが、盆栽になる前の、まだ花も香りも在るような英文を書いてくださり、それも本に収められました。
デザインのサイトヲさんは、それぞれが持っている漠然とした「AGEHA」のイメージをなんとか美しく重ねて形にするために、何度も何度も案を出し、修正してくださいました。
長い時間を経てこの本は完成しました。「AGEHA」はわたしにとって特別な本です。こうして形になっていることを、1年が過ぎた今も嬉しく思っています。
本作りに携わってくださった方々、手に取ってくださる方々、この本をお取扱してくださるお店の方々に改めて感謝を込めて。
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あげは
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天井近くに掲げられた あれは
おばあさま
おかあさま
ねえさま
いもうとたち
指を指してはいけないよ
失われた少女たち
間に合わなかった少年たち
知ってる?
知ってる
聞こえる?
聞こえる
覚えてる
あの唄を覚えてる
回廊をぐるりと巡る あれは
ひかり
かげ
ひかり
かげ
ひかり
かげ
かげ
ひかり
誰かが戸をたたく
支度はできましたか?
支度はできました
参りましょう
どうぞ
小さな銀の鈴
縮緬の髪飾り
昨日の花びら
いつか誰かきづくだろうか
オリオンの東
墨と朱色の雲
指についた印
わたしの手元に風がふく
瞬きのまにかすかに映る
そう
すべての世が忘れても
あなたの名残はここにある
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A G E H A
2022年11月19日発行
ブックデザイン|サイトヲヒデユキ
出版|荒木健太 (果林社)
印刷|iWORD
活版|日光堂
製本|博勝堂
英文|五十川純子
翻訳協力 | Michael Cheah